鉄塔を登る幽霊/錯春
 
   半熟卵の茹で時間
   花ふきんの縫い方 
   幽霊は鉄塔を登るということ
   君に教えられたいくつかのこと
   学校でも新聞でも初めて体内を往来した光も
   教えてくれなかった
   知らなくても幸せになれる
   誰も口に出さないのに皆が弁えている一般常識



   伝えられるいくつかの言葉を
   柔らかな真白い下腹部の水槽にまたひとつ 
   沈めながら君を待つ
   見上げると
   堤防に鉄塔
   ゆりゆれる
   しじまの影 白いつぶらな まなこ
   幽霊は清潔だ
   私よりも 瞳はきれいだ
   満ち潮のときだけに頭をも
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