桜吹雪 /服部 剛
 

木陰の石段に腰かけ 
時間(とき)の儚さを語らう 
中原中也と小林秀雄} 
  *


 開いた本から顔を上げると 
 少女は小走りで 
 店内のテーブルの間を抜け 
 同じ顔をした野球帽の兄が座る横に 
 ちょこんと飛びのる 


テーブルの上に置かれた 
クリームソーダのストローを 
小さい唇に銜(くわ)えた 
少女の横顔

 時間(とき)は止まり 
 遠い異国の額縁に
 入れられた 
 一枚の絵画になる 


   * 


 ぱたん、と閉じた
 本の頁(ページ)の隙間から 
 仄(ほの)かな桜の薫り漂う 
 中也の漏らした溜息は
 わたしの頬を密かに撫でた 







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