さらば 春の日/ワタナベ
桜散るのは夕日の丘か
日暮れ近づく夕日の丘か
散りゆく桜は薄紅色
薄紅色の十二単
十二もまとった春の衣
一枚脱げば夏の予感
呼んでいるのは母の声か
遠い故郷の母の声か
故郷の川は変わりはないか
今年も鮎はのぼってきたか
野いちごは青く実ったか
シロツメクサの甘い香り
夕日の丘にも甘い香り
かえっておいでと故郷の香り
もうかえろうか葉桜よ
おまえも独りじゃさびしかろ
散った桜は消えてゆくのか
故郷の山に初夏まで残る
忘れ去られた残雪のように
散った花びらしきつめられた
そこに座って今夜は飲もうか
飲んで儚い桜の花の
夢でも見ようか
さらば春の日
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