廃墟島へ/月夜野
 
  翻る黒髪 目蓋打つ白き飛沫
  おののく好奇が船上を支配し
  まさに航跡に雪崩落ちようとするとき
  はるか前方
  絶えまなく湧き立つ海の回廊から
  ひとつの島影がせり上がる
  内没と狂気の閃光を孕み
  自足する世界の辺縁で
  なお朽ちながら生きている都市の
  鬱々として定まらぬ藍鉄の層(こし)

      
  ひしめく鉄骨の怜悧な骨組み
  あるいは望楼の下の石壁の肌理(きめ)に
  穿たれた塩水の歳月の刻印  
  潮風の暴虐が引き裂いた
  格子窓の序列とそのリズム
  亡霊じみた曖昧さで林立する
  高層住宅の窓々から
  つぶてのように飛来する何ものかの視線
  不死者の圧倒する威厳
 
      
  不在の時は醸成され
  その放逐の断層がひときわ鮮明な護岸の果てに
  おぼつかぬ足取りでたどり着くもの
  瓦礫の隘路に迷いながら
  なおも活路をもとめて虚空に風穴を開けるもの
  その顕わな意志が
  孤島の廃墟を照らすとき
  透明な冒険者はその際に下り立つ
   

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