ロスト/山中 烏流
 
爪の間から
ぼろぼろと、溢すのは
何年も前からの癖
 
何が溢れているかなんて、
知ろうともしないまま
 
 
昔話の中で
お爺さんは呟いていた
 
その空白にこそ
全ての答えが
ある、と
 
そして
 
夢の中で
お婆さんは呟いていた
 
その沈黙にこそ
全ての意味が
ある、と
 
 
結局何も
見い出せないまま
 
爪の間からは
止めどなく
止めどなく、溢れて
 
空白と沈黙を
バレないように
肌色のクレヨンで
塗り潰していく
 
 
でも、
 
茜色に
染まった空を
黒く、塗り潰したのは
 
僕ではない
ないんだ
 
 
言葉は既に
枯れ落ちている
 
心も既に
何も、感じはしない
 
 
何かが、溢れていく
何かが、溢れていく
 
気付かぬまま
 
何かが、
欠落していく。
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