いつかのヒーロー /服部 剛
野球帽をかぶった少年の頃
いつもベンチから
マウンドに立ち、グローブを頭上に振りかぶり
構えるキャッチャーに
びしっ 直球を投げ込む
エースのあきちゃんをみていた。
チャンスでバッターボックスに立つ
4番打者のあきちゃんが、バットを振り抜いた
白球は放物線を描いて、外野手の背後
3階校舎のベランダへ吸い込まれると
ベンチにいる僕等は
いっせいに拳を突き上げ立ち上がった。
ダイヤモンドをゆっくり1周して
ホームインしたあきちゃんは
父親の監督とハイタッチして
ベンチで出迎える僕等と
両手を重ねてゆく
*
20年後
近所の寿司屋の暖簾(のれん)をくぐると
演歌の流れる店内で
久しぶりに鉢合(はちあ)わせたあきちゃんは
妻と子と、主(あるじ)になった男の背中を
カウンターに並べていた
少し緊張して声をかけ
こちらに振り向いて
「おぉ・・・!」
と叫んだあきちゃんの
頭はすでに、禿げていた。
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