夏の鍵盤/藤丘 香子
あの曲には
ささやかな願いをこめた
穏やかに忘れられていく窓辺
記憶の風が雨を呼ぶ
セレナーデ
うまれていく
きえていく
夏の音色は
綿雲に掴まれた水に凭れながら
雨の指先が
風通しの良い草を弾いている
傾いた月
インクに眠っている声
音域に畳まれた余韻が沈黙を解く
求め合う音が
微かに聴こえたような気がして
一冊の暦と
夢を見ないランプと
残された指
翳りの沈め方を探っている
僅か数分の
物語が降り注ぐ身体一つ分の空を捏ねて
雨粒が瞬く
あなたの手紙を読み進めるための
朝の瞳がほしい
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