夏の鍵盤/藤丘 香子
擦り切れている背表紙を
後生大事に持ち歩く
付箋に躓くことを繰り返してしまった
左手には一束のシャレード
紐解いている間に
夏の森は
微笑や涙やトキメキを頬張って
色彩を奏ではじめている
私の暮らしに
あなたは深く関わり続けていく
三階から臨むなだらかな草原の
青く茂った其処は
深々と眠る緑の種を抱き続けるのだろう
光の中に音が宿っている
時おり耳を澄ませて写し取る日々の中で
象牙色の鳥たちは
カレットを啄ばみ
気紛れに
黒く目を伏せた枝に留まる
眠らない弦は日時計を巻き戻している
もう忘れられてしまっただろうか
あなたに届けたあの
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