茜さす夏/弓束
コンクリートからふらふらと立ち上っていく熱気に埋もれ、空は酷く乾ききっている。ここは砂漠なのだろうか。少しだけそう考えてしまう。
夏みかんを剥く指の先、あしらうように付けられた細長く淡い桃色の爪に、白い筋が入り込んでいく。相変わらず生ぬるい風が夕顔の紫を撫で、夕立をどこか期待していた心は萎れていった。
隣にはすうすうと心地よさげな寝息を立て、時折うめくような寝言を発する健二さんが寝転んでいる。床で寝てしまって、腰を痛めないだろうか。そのように案じたが健二さんは「畳の上は大丈夫」なのだと快活な声をしていた。
畳の細かい折り目の上、健二さんは寝返りを打ち、わたしの隣から少し遠ざかっていっ
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