回帰/山中 烏流
 
水面に映るのは
あの日の残像
決して、私の顔なんかでは
ないこと
分かっている
 
溶け込むことは
容易なのだけれど
「ただいま」を言うことは
何よりも
何よりも難しい
気がする
 
 
(だって水面には)
(耳がないのだもの、ね)
 
 
膝を抱いて、眠ることのできる
安心にくるまれる
私だけの場所を
探していたのだ、けれど
 
結局見つからなくて
やはり最後は
ここにたどり着いた
 
 
ただただ何もない
水面
水面
一面の水面
 
 
(おかえり、って)
(言って)
 
(言って、)
 
 
深く、もっと深くと
身体を沈めると
包み込まれる感覚
引き込まれる感覚
 
こっちだよ、って
何かが
手招きしてる
 
 
何も考えられない
無償の安心感
 
これこそが、人の
 
 
(言葉は、泡となって消えて)
 
 
ねぇ、
ただいま。
 
帰って、きたよ。






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