風の声 /服部 剛
 
三十過ぎて 
忙しさを言い訳に 
すっかり運動不足の僕は 
最近腹筋をはじめた 

しばらく鍛えてなかったので 
体を起こすたび 
床から上がってしまう両足を 
しっかりと抑えてくれる 
あの懐かしい 
力強い手を思い出す 

去年の暮れ
五十八で亡くなった 
少年野球の頃の監督 
補欠の僕を見棄てずに 
いつも一緒に走ってくれた 

大人になった日々を 
へばりそうになると 
「 ほら、ハッちゃん、がんばれ! 」と 
風になった監督は 
今も明るい声をかけてくれる 

腹筋五十回目で体を起こせず 
床を枕に伸びていると 
窓の外から日はそそがれ
あの頃の校庭のように 
あたたかかった 







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