新宿小景 /服部 剛
とんこつラーメン屋のにおいが
真昼の生ぬるい風に運ばれる
新宿の雑踏を歩いていたら
ポルノ映画館の看板下で
自転車に乗ったおばちゃんが転んだ
どうしていいかわからずに
ぼくは近くへ歩いていった
それより早く
旅の鞄を背負った
若い女が手をさし出した
それよりもっと早く
茶髪の青年がかけよった
おばちゃんを囲んだ3人は
それぞれに
「 だいじょぶですか・・・? 」
と声をかけた
よれよれと立ち上がったおばちゃんは
「 こんなとこに、段差があったのねぇ、
ありがとう・・・ 」
とサドルに大きいお尻を乗せて
ふたたびペダルを漕ぎ出した
( ポルノ映画の看板に描かれた
( 裸の女は顔を伏せ
( 白いハンカチで涙を拭っていた
3人はそれぞれの方向に歩き出し
雑踏の足音に
まぎれていった
戻る 編 削 Point(8)