新宿小景 /服部 剛
 
とんこつラーメン屋のにおいが 
真昼の生ぬるい風に運ばれる 
新宿の雑踏を歩いていたら 
ポルノ映画館の看板下で 
自転車に乗ったおばちゃんが転んだ 

どうしていいかわからずに
ぼくは近くへ歩いていった 

それより早く 
旅の鞄を背負った 
若い女が手をさし出した 

それよりもっと早く 
茶髪の青年がかけよった 

おばちゃんを囲んだ3人は
それぞれに 
「 だいじょぶですか・・・? 」
と声をかけた 

よれよれと立ち上がったおばちゃんは 
「 こんなとこに、段差があったのねぇ、
  ありがとう・・・         」 
とサドルに大きいお尻を乗せて 
ふたたびペダルを漕ぎ出した 

( ポルノ映画の看板に描かれた
( 裸の女は顔を伏せ
( 白いハンカチで涙を拭っていた 

3人はそれぞれの方向に歩き出し 
雑踏の足音に 
まぎれていった 







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