貝の家族 /服部 剛
玄関のドアを開くと
家族の靴にまぎれ
老人の下駄がふたつ
並んでいた
あたりを照らす
天上の
仄(ほの)かな灯り
下駄箱の上に
立て掛けられた
一枚の絵
( 砂浜の上に並ぶ
( いくつかの貝は
( それぞれに
( 口を結んで
( 耐えていた
襖(ふすま)の開いた部屋から
認知症の老人が
杖をついて出てくる
老いた妻の肩を借り
麻痺した片足を
引きずりながら
「 この絵、いいですねぇ・・・ 」
「 夫が昔描いた絵なんです 」
老いた妻の肩からは離れ
よろめく老人に肩をかす
介護士の青年
玄関のドアを閉める時
背後の隙間から
不思議な波音が
聞こえた
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