貝の家族 /服部 剛
 
玄関のドアを開くと 
家族の靴にまぎれ
老人の下駄がふたつ 
並んでいた 

あたりを照らす
天上の 
仄(ほの)かな灯り

下駄箱の上に
立て掛けられた 
一枚の絵 

( 砂浜の上に並ぶ 
( いくつかの貝は 
( それぞれに 
( 口を結んで
( 耐えていた 

襖(ふすま)の開いた部屋から 
認知症の老人が
杖をついて出てくる 

老いた妻の肩を借り 

麻痺した片足を
引きずりながら

「 この絵、いいですねぇ・・・ 」 

「 夫が昔描いた絵なんです 」  

老いた妻の肩からは離れ 
よろめく老人に肩をかす
介護士の青年 

玄関のドアを閉める時 
背後の隙間から 
不思議な波音が 
聞こえた 




戻る   Point(13)