漏声 ー夜の車窓ー/服部 剛
 
週末の淀んだ駅の構内で
すれ違う人々の心の懐(ふところ)に
「ある独りの人」がおり

優しくうつむいていたり
寂しくほほえんでいたりする

「ある独りの人」は

(声をかけてください)
(水をください)
(手を握ってください)

と言っている

それは
仕事帰り
脱線しそうでしない人々が乗る電車の窓に
薄く映る自分の素顔だったり
座席で向き合いながら
目線を合わせることのない
疲れた乗客だったりする

窓の外に流れ去る 緑十字の光
病室のベットの上で
末期患者は闇塗りの天井をみつめている

列車の揺り籠にゆられながら
無関
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