取引き/ならぢゅん(矮猫亭)
。苦い想いを葬る慎重な手つき。
どこか見知らぬ街で、見知らぬ女の想いが、息を吹き返すような気
がした。――取り壊した借家の住人が捨てたんでしょうね。管理を
頼んでた不動産屋にあたってみて下さい。
帰り途、ディスカウント店で時計を買い電車に乗った。座席にから
だを預けると、また女の白い手だ。向かいの席で文庫の頁をめくる
指が、離婚届の女と似ている。妙に長い指。目が離せられない。白
い手がしだいに静かに光り始める。その周りはむしろほの暗く、次
々と闇が吸い寄せられる。中でもひときわ濃い暗みに女の長い指が
沈んでゆく。少しずつ。喫水線が手首の骨の突起を洗うと、白い皮
膚がくすぐっ
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