雨の犬/藤丘 香子
 
君は
君の家に入らない

雨が降っているというのに
軒下の風を嗅いで前足を舐めている

私の上には屋根があるので
髪に降るよりも
雨は、
硬質な響きで
音の羅列を渉っていく

滲み込んでいく土に
水溜りの不在を望み
遠い太陽を入れた私が震動する

夕陽を知ろうとすれば
朝を迎える度に静脈を広げ
祈ることは時に願いに変わり

雨の上に新しい雨が降り
風は様々に形を現す
既に夜の匂いの中で

( 私たちに関して、その姿は明滅ごとに
密接に迎え入れられている
日々の上に、
暮らしの中に、)

水の、
芽生えはじめた滴は次第に近づいてくる
雨は
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