巻貝の中に棲む女/猫のひたい撫でるたま子
非力な女がいた。
駅の自動販売機でペットボトルのオレンジジュースを買っても、キャップが開かない。飲みたいがために買ったので、ホームで延々とキャップを回すが、いつになっても開かない。見かねた近くのサラリーマンが「貸しなさい」と開けてくれる。
非力な女は背も低い、満員電車でいつも埋もれてしまう。
サラリーマンに囲まれて息苦しいので、ヒールを履いた足でもって背伸びをしている。つかまる手すりもなく、ずっと背伸びをしていると見かねたサラリーマンが「こちらに来なさい」と隅の安全な場所を譲ってくれる。
非力な女はお金もない、細い体にいつもベージュのスーツを身にまとっているが、働いているの
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