フジコ・へミング/渡 ひろこ
 
それは「ラ・カンパネラ」だった
かきたてるような狂おしい響きに
幼い日に聴いた 胸の震えが蘇える
あのクリスタルの針が
ふれあうような高音が
ころがるように鳴り響く

軽やかに跳ねまわる
年輪のきざまれた
彼女の指先から語られる
“なにか” をつかみ取りたくて
心を凪ぎにして
水面(みなも)をピンと張りつめる

スケールに重なる背景
幾重にも波紋を描き
何度も立つ鳥肌から
その毛穴の奥まで染みていって
ふりそそぐ波動を
共有したいと思うのは
私だけではないだろう

どこか蓮っ葉な童女は
一瞬で
神々しいピアニストとなり
その未曾有(みぞう)の硲(はざま)を
スルリ とくぐり抜ける

見えない透き間に何があるのか
耳を澄ましても

ただ彼女の熱い魂がかすめて
身体の中に
ほてりだけが残った


















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