少年歯/ポッケ
 
崩れたものがあったのだとして
その日まではこうみょうに
わたしを生かしていた
 
みじかいはさみで
木工用ボンドで
十二色の絵の具で
ただつくる時間を愛する少年が

思いあたるのは
虫歯 神経を
きゅるきゅる
まきとる作業
で少年は脱皮していく
殻だけを残して

それからわたしは
歯 を、
さがしまわって
少年の居る歯を
たださがして
いくつも違って
もう、さがすのはやめて
つくることを決めて
いくつもそれらしい歯を
ただ歯を
つくりつづけ

目的は
動機は
目標は
意味は
なんです?
なんです?

なんなんでしょう?
ないんです
なかったんです

あのとき
さがしまわった
あの日に
眼が少年を映さなくなって、





きのう
つくりためた歯をぜんぶ
屋根の上へほうり投げ
きょう
柔かい日に洗ったスニーカーで
春が見える玄関に飛び出して

わたしはそして
再会し
くちもとに白い歯、を
のぞかせる





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