「 日傘の女 」 /服部 剛
平日の夕暮れ
みすぼらしい服を着た中年の男は
公園のベンチに座り
モネ展の「日傘の女」のポスターを手に
喰い入るようにじっと見ていた
それを横目に歩いていると
前から乳母車を押す若い婦人が近づいて来た
寝かせられた赤子は静かな瞳でぼくを見て
横切る時に、手をふった
つられてぼくも、手をふった
黄昏の陽が降りそそぐ
夕暮れの公園の出口へと
静かな足音で乳母車を押してゆく
若い婦人の後ろ姿を
ぼくは振り返る
少し小さくなったベンチに
中年の男の姿はすでに無く
地に伸びた婦人の影は消え
「日傘の女」
ふわり
風に舞っていた
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