【小説】お百度参り/なかがわひろか
あることの証明であるように見えた。
幼き頃に、近所の友人たちと遅くまでこの神社で戯れた。
そんなこと、ここ何年も思い出すことは無かった。
次に女に出会うのは、一人の紳士。
都会で財を成し、富を築き、思えばいつしか犠牲を厭うことがなくなった。こんな風に故郷を思うことなど無かった。
母が死んだのは、一昨日前のこと。
そしてこの地に足を踏み入れたのは、昨日のこと。
時間はただ過ぎる。
それは何年も、変わることなどなかったはずだ。
紳士は、母が死んだことを、当たり前のように受け入れた。
いずれは死ぬ運命。
早いか遅いかだけだった。
ただ一つ危惧するならば、何か大きな商談がな
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