さかな/芳賀梨花子
 
ゆく
西側の山際がおぼろげに
さよならを言うころまで
魚篭を高く持ちあげるのは合図
いぬっころみたいに砂丘を滑り降り急いで祖父のもとに
ひいふうみいよおいつむうやあ
大きな声で数えると
祖父の長い影は誇らしげに
お夕飯は、これを天ぷらにしていただこう
さぁ、おばあちゃまがおうちで待っているぞ
と歩き出す
追いかける歩幅の狭いわたし
ふたりともちょっと猫背
魚篭の中で命をおとしていく鱚のこと考える
ピカピカしていてきれいなのに
人間って残酷、残酷だわって
お勝手口でなきじゃくって祖父を困らせるくせに
食卓では美味しい美味しいって
無邪気ということはこういうことなのねって
そういえば祖母が笑っていたっけ
危ないからそばに来ないでって
お魚の行く末ばかり気にしている息子をたしなめる
揚げたての鰺をお酢に浸せば
じゅっと勢いよく断末魔の悲鳴をあげる
わたしのしあわせとは裏腹に


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