ある夜/んなこたーない
夜のなかを流れる夜、橋上を吹きぬける無色の風。
暗い浴室の排水口。サーチライト、夢遊病者を追跡する。
紙幣を数え直す音。こめかみに突き刺す人さし指。
刃こぼれした剃刀の反射に、鏡のなかを流れ出す夜。
解体するピアノの戦慄、下水の流れに砕ける影。
地下5階。水道管をつらぬいた悪意の吐瀉物。
ダダダダダ、口を押さえ込む、他人の手。
性倒錯者の目まいを覚えて、死んだ真似をする、裸のダダ。
全身にガソリンを浴びたような、恐るべきホイットマンの冗長な詩句よ。
無関心な数千の足音、その重たい速度を聞き給え。
ガス栓をひねる。トランプをめくる。危険な角度で傾くタワー。
陽光の下で死んでたまるか。一行で世界を肯定し給え。
鉄槌が厳粛に振り下ろされる。さまよう哺乳動物の亡霊たちよ。
神学の書物よ。太陽を憎悪するため、うずたかく積まれた女の下着よ。
個室の便所で、ジッパーに手をかけてまわる、裸のダダ。
Loser、うながされるまま射精する、この夜の果てにダダダダダ。
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