狼よ、おれたちも敗走する!/んなこたーない
今日の勤務が終了して、いつものように同僚とすこしのあいだ雑談を交わしていると、彼はある若手俳優のスキャンダルが発覚し、各メディアが揃って一報していることをいくらか興奮気味に告げた。そしてそのスキャンダルは、最近ぼくの家の近所を舞台にして多発しているある特異な性犯罪と結びつけられたものだった。ぼくは血の気が引いていくのを感じ、従業員用の通用門を抜けるとまっすぐに家路を急いだ。
その若手俳優はぼくの中学時代の同級生である。ぼくらが通っていた中学は、市立のなかでも底辺部であると噂されたことも度々あったが、当時、ぼくのまわりには傑出した人間がたくさんいたし、もちろん彼はそのなかの出世頭であった。そのころから彼は一種の神々しさで場の空気を支配する傾向があった。ある日、彼が大食い大会に出場したときの話だ。(つづく)
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