狼よ、おれたちも敗走する!/んなこたーない
八月の午後だった。風はそよとも吹かず、その年の最高気温を記録するほどの暑さだった。視野に入るものはどれもみな輪郭を曖昧にして、そのまま溶けだしていくようにも思われた。唯一、水銀を流し込んだような往来だけが、冷却されてでもいるかのようにひどく堅固に見えていた。
この通りに面して児童公園があり、公園内を横切るとすぐ駅前に出る。ぼくは毎日の仕事の行き帰りにこのショートカットを利用していた。
ぼくはある大型デパートの設備管理の仕事をしていて、二十四時間体制を維持するため、シフト制で勤務交代することになっていた。ぼくは高校を卒業すると同時に車の免許を一応は取ったのだが、完全なるペーパードライバーだ
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