青炎の花 /服部 剛
 
「個人的なジコが起きたんだ」 
老人ホームの会議で夜遅くなった帰り道 
同僚は先日別れたばかりの
妻と子の話を切り出した 

涙を堪(こら)えた瞳で手を上げた彼は
交差点を渡って 
独りきりのバス停へ 

片手を上げ返した僕も 
もらい泣きを堪えながら背を向け 
反対のバス停へ 

なだらかな坂道の途中で見渡す 
無数の明かりを散りばめた 
街の夜景のプラネタリウム 

この小さい両手では
すくいきれない
いくつもの哀しみ 
闇のまにまに
危うい点滅を繰り返す 

日中は 
目の前に覆う闇を 
振り払うように 
お年寄りの輪の中心で 

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