印象 : 1/安部行人
 
 大きな通りをひとつ東に越え、いくつかの角を曲がったところにその店はある。
 狭い階段をあがり、ガラスをはめ込んだ扉を押すと、ドアベルが小さく鳴って客たちを迎え入れる。決して広くはなく、また建物の二階でありながら窓もないため、眼を惑わせるなにものもない。照明は雑誌が読める程度には明るいが、それ以上ではない。大声で話すような客がいないので、店はいつも好ましい静けさのうちにある。

 夏の初めのある夕暮れ時、仕事を終えて部屋に帰る途中で、わたしはいつものようにその店を訪れた。黄色い灯りの下で、客たちの煙草の煙が薄くたなびき、控えめに交わされる会話の隙間に消えていくのが見えた。
 その日は普段よ
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