蕾 /服部 剛
 
フェンスの下に 
種は蒔(ま)かれ 
土から小さい顔を出した 
緑の芽 

いつしか 
空へと背丈を伸ばす 
一本の木 

錆びた金網は樹皮に喰い込み 
幹はフェンスの縁(ふち)を 
苦しげに噛(か)んでいる 


( 誕生はいつも 
( 場所を選ばず 
( 今日も遠い国では 
( 一切れのパンも無く 
( 母の乳房に縋(すが)って泣く 
( 赤子等に 
( そ知らぬ顔で 
( 地球は回る 


何処(どこ)の場所でも 
地の深くに根を張り巡らせ
変わらずに立つ
一本の木 

( 日々の冷たい風に吹かれて 
( 俯(うつむ)くわたしの内に立つ 
( 一本の木 


蒼(あお)い風の吹き渡る 
雲一つ無い
弥生の空 

鶯(うぐいす)の鳴声 

見上げた 
無数の枝にふくらむ 
白い蕾(つぼみ) 




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