Arabesque/結城 森士
 
眩しい路上の中心に
倒れこんだ青い服の少女は
かつて僕の姉であった

(記憶)黒い鉄格子の向こう側に
姉の通っていた巣鴨小学校があり
僕は毎日、黒いアスファルトから
柵越しに姉の姿を探していた

学校から帰ってくると
ランドセルを放り投げて
白いピアノを弾いている
アラベスク
夢の中では
白い霧の向こうで
ピアノを弾いてる
姉の揺れている背中は
遠く幾何学的な森の中にある

美しく不安定な旋律に合わせて
細い指先が黒髪を揺らしている
鍵盤がガラスのように壊れて
音と共に散っていく(記憶)

ある日
いつもの様に帰宅した姉は
壊れた機械の様に
動かなくなった
遠い森の中に
いつまでも
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