夢 〜赤ちゃんの国〜 /服部 剛
 
うをまわしている 
( ことだろう 

ぼくはといえば 
風が吹くと 
あごの下が揺れるので 
おかしいと思い 
老人ホームの便所に行くと

鏡に映る自画像は
無数の皺(しわ)を刻んだ 
白髪の老人 
だった 

背負ったリュックのファスナーを開くと 
玉手箱の蓋(ふた)が外れていた


  * 


今日も一日の仕事を終えた 
揺りかごの電車 
目を覚まし
顔を上げると 
向かいの席の一列に座り 
並んで眠る赤ちゃん達の顔は 
くたびれたスーツを着た 
中年サラリーマンの達の顔に 
戻ってゆく 

電車を降りて 
駅構内を行き交う人々と
すれ違うたびに 
( おぎゃあ ) 
という不思議な産声が聞こえた 

その日はなぜか 
いつもより優しい気持で 
毎晩母が味噌汁をつくる家へと
月明かりに照らされた夜道を 
帰った 







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