蚊/黒田康之
ベランダの植木鉢を動かそうとして
シクラメンに手をかけると
蚊
あやふやなその飛び方は曖昧で
不確かな何かのようだ
冬に生きる蚊を哀れ蚊と呼ぶ
ならば
冬を過ぎ
春を生きるこの不確かさを
私はなんと呼べばいいのだろうか
ふらふらと陽の中に踊りだした蚊は
重力に従って降りそそぐ光に圧され
階下にぼんやりと降りていった
蚊
私はこの命をどうしようとも思わずに
ただ行く末を見守るだけだ
壊れかけた今日の天気に
壊れかけた蚊の生命は
名付ける間もなく消えようとしている
哀れなのは
私の方だ
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