「 椅子に座る老女 」 /服部 剛
 
れからずいぶん長いこと 
( 歩いて来たのだ・・・ 

白いハンカチを握る手を、膝の上に重ねる。 
床上に置いた足のつまさきを、揃(そろ)える。 

( 黒い衣の内に 
( 不規則に脈打つ、 
( 青褪(あおざ)めた、心臓。 

絶えず、老女は祈っている。 
長い間 一つ屋根の下に暮らした家に 
遺(のこ)してゆく独り身の息子のことを 

( 風に揺れる、蝋燭(ろうそく)の火

強張(こわば)った、頬。 
結んだ、唇。 

無明の闇を 
静かに射抜く、老女の瞳。 





 * ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラーの絵
  「私の母の肖像」を参考に、この詩を書きました。 




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