「 椅子に座る老女 」 /服部 剛
 
灰色の壁に囲まれた
音の無い部屋

黒い衣を身に纏(まと)い
「死」を決意した病の老女 
一点をみつめ 
椅子に腰かけている 

( 左手の薬指に今も鈍(にぶ)く光る 
( 結婚して数年で世を去った 
( 若い夫に贈られた結婚指輪 



 
    壁に掛かる  
    黒い額縁に囲まれた 
    故郷の懐かしい情景 

    煉瓦(れんが)造りの町並みに夜は更けて 
    闇に灯るいくつもの家の窓明かり 
    食卓で向き合う若い母と幼い息子の影

                        」 

( あれか
[次のページ]
戻る   Point(7)