弱者の拳 /服部 剛
昨日は職場のおばさんの
くどい小言(こごと)に嫌気がさして
かけがえのない他の人さえ
土俵の外へうっちゃり
しかめっ面でひとり相撲をしていた
昨晩見た夢のなかで
旧友のむなぐらを掴んだところで
目が覚めると
冷や汗が流れていた
今朝の満員電車のドアに
乗客を押し込むアルバイトのおじさんは
ホームから発車すると
無条件におじぎをした姿のまま
車窓から消えた
ぼくは
愛を何処かに
置き忘れたまま
今日も吊革(つりかわ)にぶらさがる
( 脳裏には、遠い挫折の日の記憶。
昔の職場で「失格」の烙印(らくいん)を押され
日常業務を外され
社内の便所ばかりを磨いていた
「 あの頃のぼく 」
少し年齢(とし)を重ねた
ぼくのこころのなかで
彼は今もうつむいている
震える拳(こぶし)を、握りしめ。
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