ゴッホとの対話〜オルセー美術館にて〜 /服部 剛
ゴ
ッホに重ねて読んだのは、美術館を出た後だからであろう。五十年
以上前に綴られた、今は亡き詩人からのメッセージを胸に納め、私
は古い本の頁を閉じた。
ガラスの壁の外を見渡すと、上野の街の上に広がる夕焼け空には
朧(おぼろ)な琥珀の輝きが薄い雲に染み渡り、ビル影に夕陽は沈みかけてい
た。「荒地」詩集をリュックに入れた私は立ち上がり、一日身に纏(まと)
っていた灰色の上着に、再び袖を通した。
* 荒地詩集・一九五一(早川書房)より引用。
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