「 遺体の顔 」 /服部 剛
一人ずつ
手にした棒を杯に浸し
白い衣に包まれた
Y爺さんの亡骸に
聖水をふりかけ
両手を合わせる
( 老人ホームに入る前
( クリーニング屋だったY爺さん
( テーブルに山積みの
( 毎日皆で使う洗濯済みのおしぼりを
( まっすぐ立ったままうつむいて
( 一枚ずつ丁寧にたたんでいた
( 風呂に入るのを嫌がり
( 後ろから必死に押さえた職員を
( 振りほどいて暴れていた
( 一日に何十周も歩く
( 徘徊中の廊下で
( 他部署のぼくとすれ違い
( 目があうといつも
( にこやかに手を上げた
前に並んだ職員は
一人ずつ
お別れの祈りを終えて
小聖堂から出て行く
ぼくも同じように
涙を流す遺族に一礼して
手にした棒で
Y爺さんの亡骸に
聖水を
ふりかける
両手を合わせ
棺桶に横たわる
安らかな寝顔を見ると
ほころんだ頬の上に
薄目をひらいた
Y爺さんの
瞳が光った
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