「 遺体の顔 」 /服部 剛
 
日中の忙しさからすっかり静まり返った 
午後九時過ぎの特養老人ホーム

入院先で亡くなった 
Y爺さんの亡骸(なきがら)が入った棺桶は 
施設内の小聖堂に運ばれた 

いつもはほとんどの職員が
退勤している時刻 

園長から「お祈りしましょう」の伝言は 
一人ひとりの職員の口から耳へ 
数珠(じゅず)のようにつながり 
小聖堂に集まった 
あふれんばかりの職員は 
棺桶に横たわるY爺さんを囲んだ 

親しかった寮母のMさんは 
涙を堪(こら)えて口を結び 

ふた月前に退職して以来 
偶然来ていたI君も 
しんみりと瞳を閉じ 


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