butterfly ecstasy/渡 ひろこ
蝶もサナギがら産まれでる時
勇気と幾ばくかの痛みはともなうのではないだろうか
かたい殻の中で内から突きあげてくる衝動に身悶えながら
必死に闇の中で蠢く
満身の力をこめて
声なき声をあげて
とうとうそのヨロイを打ち破った瞬間
パリパリと飛び散った破片が
まだ濡れたやわらかい羽に突き刺さろうとも
未知なる世界への憧れを抑えきれず
一刻もはやく外界へともがく
すべての束縛を脱ぎすてた蝶は
悦びに震えながら
新鮮な空気を胸いっぱいに吸いこむ
優しい光に身体を晒して
恍惚の表情で温もりに抱かれる
背後に迫る欲望の気配も知らずに
花の陰に潜む殺気にも気づかずに
漂う甘い蜜の香りに酔いしれる
butterfly ecstasy
一ナノグラムの蝶の夢
乾いた風になぶられ
パチン と消えた
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