かくはん(確犯)/渡 ひろこ
さっきからわけもなく
ティースプーンで
カップの中をかき混ぜてしまう
テーブルをはさんで
向き合うアナタの輪郭がぼやける
沈黙が岩のように押さえつけるから
うつむくしかなくて
あざ笑うかのように
アナタの手の中の影は
小刻みにふるえながら
艶やかに点滅する
真っ暗な海のモールス信号みたいで
暗号が伝わる前に
オブラートに包んで
呑みこんでしまおうとしたけど
やぶれてぶちまけたら恐いから
テーブルにこぼれた時間と一緒に
カップにそそいで
まぜて まぜて まぜて
溶かして 濾過して
(最後に渦をまいて吸いこまれる
アナタを見とどけてから)
すっかり冷めた琥珀色を
一滴のこらず
飲み干す
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