「 透明人間 」 /服部 剛
「 生れ落ちた その日から
へんちくりんなこのかおで
わたしはわたしを演(や)ってきた 」
という詩を老人ホームで朗読したら
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。
その夜11Cutに立ち寄って
ばっさ ばっさ と髪を切り
床に落ちた髪に敷きつめられ
眼下が波打つ黒い海になるにつれ
プロの手つきで鋏(はさみ)を光らせる
お洒落で爽やかなカリスマ美容師の兄ちゃんに
ばっさ ばっさ と
鏡に映る疲れた顔の「わたし自身」を
切り落としてもらいたく
なってくる
日々の仕事にずっこけて
惚れた女にゃ逃げら
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