音のない戦場/九谷夏紀
 
図書館の中に 
戦場はひっそりと息をひそめていた 
爆音も叫びも飛行機のエンジン音やプロペラ音も 
溜息も束の間の笑顔も 
音のない写真に詰め込まれていて 
それらは見る者の脳に聞こえてくるだけだ 
図書館は相変わらず静けさに満ちていた 
窓の外を見れば木々の緑が風にそよいでいる 
しんとした森の中にある図書館は 
ヒール音がよく響いた 
書棚の合間に佇む人々は本と向き合い 
みな人には無関心で 
それが心地良くもある 
そのおかげで 
私は戦地にいるかのように 
わずかながらでも錯覚することができたし 
この写真から漂う戦火の煙に 
包まれているような幻想も
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