「 展覧会の絵 」/服部 剛
 
仕事を終えると皆は帰ったので、私は独り、
他部署へと続く施設内の長い廊下を渡った。 

白壁の扉を開くと、そこは特養ホーム。正方
形の四隅を結ぶ四つの廊下に並んだ部屋を、
若い夜勤者達は忙しく巡回し、彼等が個室に
現れると、全ての寝たきり老人は、血管の浮
き出た手首を垂らし、宙に伸ばしている。 

薄汚れたクリームの壁は人知れぬ展覧会。額
縁のなかに描かれた自画像が、沈黙の内に私
を呼ぶので、私はしばらくの間立っていた。
( 夜勤者達の早い靴音を背後に ) 


「 額縁の中では、中年の孤独者が受話器を
  手に、深夜の電話をかけている。
 ( お母さんが、消えち
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