道行の果肉/ポッケ
本をよむわたしのよこで
母がりんごをむいている
わたしもうまくむけるようになったのよ
そういってわたしは
いっしょうけんめいわきめもふらず
休みなしでむき続けた
我にかえったわたしの手元には
芯だけになったりんご
おいしく食べられるはずだった果肉は
皮と同じように薄く削ぎむかれ
乾いて瑞々しさを失っていた
わたし早く芯にたどりつきたかったの
見えない先には何があるか早く知りたくて
いちばん近くで触れていたものには目もくれなかった
わたしは泣きながら
赤白のテープのようなりんごを掻き集め
おなかに抱いた
ごめんなさい
ごめんなさい
わたしの命
目をあけるとテーブルには
黄金色に濡れたりんごが三切
「蜜がまわっておいしかったわよ。はやくおあがりなさい」
あぁ、おかあさん。
おいしそうね
ほんとうに
おいしそう
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