夜明け前 〜老婆の言霊〜 /服部 剛
夜行列車の車窓。
夜明け前の雪国。
宙に舞う風雪。
山々の裏に潜む朝陽に
うっすらと浮かび上がる
ましろい雪原。
( 転寝(うたたね)の合間
( 車窓の外に離れて浮かぶ
( いくつかの夢のしゃぼん
( 一年前
( 自ら命を絶った老婆の
( 寂しく丸い後ろ姿
( 十日前
( 自宅に線香をあげに行った時
( 両手を合わせ、瞳を開けると
( 棺桶のなかから微笑した
( 老婆の痩せた寝顔
( 数日前
( 職場の老人ホームで
( いつも柔和な仏の顔をした
( 車椅子の老婆を介助するトイレのなかで
( 雪国
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