冬の車窓 〜二〜 /服部 剛
ひとりの人間の哀しみに
わたしは立ち入ることができない
十日前に夫を亡くした同僚の
目の前を覆う暗闇に
指一本たりとも
わたしはふれることができない
( 背後から追い立てる
( 日頃の忙しさに
( すぐつかれる私は
( 畳の上
( 青い顔で伸びている
旅先の夜の車窓を
只ぼんやりと眺め
耳に入れたイヤホンから
静かな弾き語りを聞いていた
ふいに
夜の車窓のスクリーンに浮かび上がる
一週間前の通夜
涙を見せたことの無い同僚が
喪服に身を包み
遺影の前で泣き崩れる姿
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