十戒/暗闇れもん
父は聖書を読んでいた
本屋さんの片隅の椅子に座り世間から隠れるように
家族から遠く離れていくように
哲学書の背表紙を意味もなく鳴らしながら
横目で父の姿を盗み見る
十戒を教えてくれたのは父だった
幼いころ暇さえあれば、アニメよりもモーゼを見ていた
アダムとイブが手にした林檎を食べてみたいと思った
罪の味を知りたかった
一刻も早く
神がエジプトの有力者の長子を殺した
エジプトの民を救うために
罪の無い子供の死が
親の過ちの責めを負った子供の死が
多くの民を救うためのわずかな犠牲
子を失う親の悲しみが民を解放する
弱い生き物でしょう
悲しい生き物でしょう
一刻も早くこの世の仕組みを知らなければユダとなってしまう
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