碧いボール /服部 剛
ブリキのロボットはひとり
旅先の浜辺に佇(たたず)んでいた
羽織った黒いマントを
浜辺の風になびかせて
( 振り返れば
( 浜辺には長い足跡
拾った碧(あお)いボールを投げ上げて
吸い込まれゆく頭上の空から
落下点へと夢中で走る
ひとり遊びの繰り返し
( 振り返れば
( いつのまに通り過ぎた
( 父と幼い娘が
( 遠くで
( 砂遊びをしている
ブリキのロボットはひとり
旅先の浜辺に佇んでいた
( 潮風に錆(さ)びた胸の内
( 過ぎ去った日に綴(つづ)った
( ましろい手紙は幾度も破れたのだ
( そして密かに想いを寄せる人は
( 今もなお
( 遠い空の下に
波打ち際の
遠くから聞こえる
幼い少年の泣き声
ブリキのロボットは
ふたたび歩き始める
錆びた手に
夢色の
碧いボールを握り
羽織った黒いマントを
浜辺の風になびかせて
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