遠い鐘音/服部 剛
 
幼い頃に広かった幼稚園の庭。大人になって訪れると
不思議なほど狭くなっていた。密かに憧れていた保母
さんは、ふたりめの赤ちゃんをだっこして。お腹の太
ったおばちゃんになっていた。 

年を重ねるごとに時計の針は速く回り、コマ送りで背
後に遠のいてゆく日々よ。八十年の人生は、思いの他
あっけなく過ぎ去る宇宙のなかの塵(ちり)。

( 地球というあの青い惑星には、無意味に思えるほ
( ど、無数の塵が蠢(うごめ)いていた。それぞれの、一人の
( 人間のさも重大であるかのように十字架背負う生
( 涯は、やがて無数の塵となり宇宙へと還る。 

巻き戻せない去年のある
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