メモ/はるな
 

そうですね、あっという間に夏が来て、ベランダでは何匹もの甲虫が孵化してしまいました。もうこの小さな箱の中で3世代か、4世代めになる。毎年何匹かがここで死んで、何匹かが木のなかへ放たれ、さらに何匹かがもの好きの子どもの手にわたったりする。わたしはもうその全てを考えるだに恐ろしく、毎年梅雨が明けるか明けないかのこのころに、もう孵化してるのじゃない、もう死んでるんじゃないかと、その世界の主であるところの夫に毎朝毎晩(夫が帰ってこないよるには電話をしてまで)尋ねて箱の中を確認させる。(そのときわたしは扉をきっちりと閉めた部屋のなかにいて、ガラス越しにその様子を見ている。ガラスが少し曇っている)。

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