河童伝/板谷みきょう
 
「何十代も続いた家も沼の底になるのかのぅ。」
爺が、鼻水すすって呟いた。

平野(ひらの)の村は、毎年夏に氾濫するぬらくら川のせいで、田畑はびっしょり。
収穫のあがらずの貧乏村…

村長は考えた。
―――ダムを作ろう―――
山の中腹にダムを作る。
そのために一つ部落が水の底。
ダム設置予定地より下流には、三郎沼があった。
小さな沼だが、部落の者は河童の伝説を信じておった。
部落の者や長は、平野の村議会に願いを告げたが、断られてばかり…

「三郎沼も干あがってしまうでのぉ。」
婆が、涙をぬぐって呟いた。

爺と婆は、沼のほとりで話しておった。
沼の底で三郎は聞いて
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